[ Home > 電気製品の EMC/安全適合性 > EMC+Compliance Journal より ]

EMC 指令の改訂

by Alan McHale, Radio Frequency Investigation Ltd

翻訳: T.Sato


要約

2002年のクリスマス、欧州委員会は EMC 指令の公式な改訂案を公表した。 明確化された文章と見直された手続きによって、 この案は市場の全てのプレーヤにとっての利益を提示している。

概要

欧州の EMC 指令は、 おそらくは電磁的両立性の歴史における最も重要な里程標であった。 それは、ブリュッセルから出された最初の EMC 規則ではなかった; 1976年の昔から、他のものが先行していた。 しかし、指令 89/336/EEC を採択することによって、 規制者は別の道、より広い「ニュー・アプローチ」に従うこととなった。 これは、1992年 1月 1日から ほとんど全ての電気/電子機器に適用される基本必須要求を導入した。 特定の家庭用電気器具、携帯工具、そして蛍光照明器具からの無線干渉の制限に特化していた より古い断片的な規制は、その発効とともに廃止された。

この指令でカバーされる機器の使用に生じる爆発的成長と それによる電磁環境の悪化の恐れとを規制者が予期していたかどうかはわからない。 規制者の意図は、電気/電子製品が過剰な電磁干渉を生じず、 また電磁妨害による悪影響も受けないことを保証しながら、 欧州内での古い技術的貿易障壁を除去し、また新たなそれを防ぐことであった。 結果論としては、我々は EMC 指令がその役割を良く果たしたことを知っている。

1998年から、SLIM (Simpler Legislation for the Internal Market) プロセスの一部として、 欧州委員会は EMC 指令のレビューを行なった。 勧告が出され、それに続いて産業界での協議が行なわれた。 委員会は、改訂版 EMC 指令の公式な案1 を 2002年のクリスマスに公表した; 欧州議会と理事会は、それを今年検討するであろう。

なぜ変更が必要なのか?

特に明確さとその手法の適用に関して、EMC 指令に問題がなかったわけではない。 委員会は、適用の一貫性を非公式に促進する、 指令そのもののように長々としたガイドを出すことが適当であると気付いた。 このガイドは不可欠であることが示され、 改訂された法的に確立された文書の必要性を実証した。 さらに、SLIM プロセスとその後の議論を通して潜在的な改善が同定された。

主要な変更の要約

この案は、その長さを少なくとも 2/3 に減らしながら、大きな変更と明確化を達成している。 主要な変更を以下に示す。

内容 詳細
新たに適用範囲から除外されたもの R&TTE 指令でカバーされる機器。
航空機、及び航空機に取り付けられる機器。
本質的に良性で、かつ妨害を受ける恐れのない機器。
新たに適用範囲に含められたもの エンド・ユーザーが装置に組み込むことを意図したコンポーネントや部分組み立て。
既成の接続デバイス。
必須要求 EMC アセスメント要求と情報要求は、 装置のために必須なものであると定義された。
固定設備 固定設備のための分離された体制。
適合性評価手続き すべての場合について単一の手続きが適用され、 文書の用意と 10年間の保管が求められる。
市場調査の改善 製造業者 (あるいはその代理人) の名前と住所が 全ての製品に含まれなければならない。
通知機関 コンペテント・ボディは通知機関に名称変更された
通知機関への依存は完全に任意のものとなった。
整合規格 整合規格の役割は明確化された。
住宅環境に適さない機器 この制限の明確な表示が付けられねばならない。

製造業者に対する影響

現在の指令の元では、適合性の達成のために整合規格を用いている典型的な製造業者は、 当局の要求に備えて、適合宣言書のみを 10年間保管することを義務付けられている。 この案の元では、彼は適合性の証拠を与えるために必要な 全ての技術文書を作成し、維持し、また保管しなければならない。 これは増やされた負担である。

アセスメントが全ての意図された正常な動作状態を考慮していることを保証し、 また全ての可能な代表的な構成で全ての要求を満たしていることを確認するために、 この重荷は製造業者も負うことになるであろう。

この指令案は、それが適当であると考えた時に通知機関の専門家のサービスを使い、 通知機関からの報告書を彼の技術文書の一部として使う柔軟性を製造業者に与える。

固定設備の製造業者や設置業者は、 公式な適合性アセスメント手続きが要求されていないことに気付くであろう。 しかし、彼らは、その設備を文書化することを含め、 基本的な EMC 保護要求を満足させるという観点のもとに グッド・エンジニアリング・プラクティスを用いる義務を持つ。 彼らは、通常は苦情によって同定された、いかなる問題にも対処しなければならない。 固定設備への組み込みのみが意図された装置のための手続きは緩和された。

既成の接続デバイスの製造業者は、 接続されることを意図された種類の装置と共にそれらが使われた時に 基本保護要求への適合性が達成されることを保証するように設計し、 製造しなければならないことに気付くであろう。 適当なユーザー向け文書が提供されなければならない。

それぞれの製品に名前と住所を含めるという要求は、 指令に関する取り締まりを行なう際の調査機関の効率を著しく高めるであろう。 製造業者は即座に追跡でき、誠実な製造業者は あまり良心的でないプレーヤーの排除によって利益を得るであろう。

産業界は金を節約できるか?

文書化のコストは、新しい案の元では高くなる傾向となるであろう。 これは、適合性に関係する全ての文書を作成し、維持し、 そして最後の生産から 10年後まで保管するという義務による。

それぞれの製造業者の状況は異なるであろうが、 通知機関、及び/もしくテスト・ラボが関与するかどうかの選択における新たな柔軟性は、 典型的な製造業者がコストと出荷までの時間を最適化するための鍵となるであろう。

既成の接続デバイスの製造業者は 彼らの製品の適合性の評価と文書化の新たなコストに直面するであろう。

固定設備の製造業者や設置業者は、 適合性評価に関連するコストの低減に気付くかも知れない。


Referene

  1. Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on the approximation of the laws of the Member States relating to electromagnetic compatibility (COM(2002) 759 final)

  2. Opinion of the European Economic and Social Committee on the `Commission Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on the approximation of the laws of the Member States relating to electromagnetic compatibility' (2003/C 220/03)


関連記事:
- 「修正」版 EMC 指令
- EMC 指令の改訂
- 新 EMC 指令 2004/108/EC
- 新 EMC 指令 ―― システム・インテグレータにとって良いニュースか?
- EMC 指令 ―― 89/336/EEC、及び 2004/108/EC への適合のためのガイド


Copyright (C) 2003 Nutwood UK Ltd.

これは、EMC+Compliance Journal に掲載された記事を、 その許諾を得て T. Sato が翻訳したものです。 この翻訳については、原著者らはいかなる責任も持ちません。 これについての意見、質問などは VEF00200@nifty.com (T.Sato) 宛にお送り下さい。

Last update: 2003-05-28