バナナの皮 ― XI

ロンドンの土手のミレニアム大観覧車は 9月12日に吊り上げられる予定であった。その遅れの１つは EMC 問題によって引き起こされた。 9月11日の Daily Telegraph 紙は「そのイベントをカバーするテレビ放送車の衛星通信アンテナがその観覧車を吊り上げるケーブルを監視するレーザー信号に干渉し、その作業はその宣伝の犠牲となった」と伝えた。 9月11日の Guardian 紙は「作業はマスコミの車両の衛星通信アンテナがその吊り上げを監視する電子機器に干渉した時に最初に遅れ、固定用のケーブルを引き直さなければならなくなった時にさらに妨げられた」と伝えた。 9月17日の The Engineer はこの EMC 問題を完全に無視し、その代わりに固定用ケーブルと観覧車、ブラケット、そしてピンに焦点を当てることを選んだ。
あるエンジニアリング企業は、ネットワーク化されたコンピュータ支援設計システム (CAD) に多額の投資をした。しかし、そのシステムの多くの利点には、それに日常的に発生する問題による暗影が投じられた。そのシステムは突然クラッシュすることがあり、時には何時間分もの仕事が失われたり混乱させられたりし、回路の故障はほとんど月例のイベントのようであった。最初のうちはこれらは「初期問題」であると見倣されていたが、時間が経ち、設計業務が計画から遅れ続けるに従って、システム供給者との関係はさらに難しいものとなっていった。エンジニアリング・チームの１つがある専門家向けジャーナルの記事を読んだ時、その問題はそのシステムではなくてその環境にあるのかも知れないことに気付いた。すぐに、彼らはそのシステムの誤動作がある大型図面複写機の動作と同時に起きており、これが主電源にスイッチング・ノイズを注入していたことを発見した。
(Furse Electronic Systems Protection Handbook, 1996, page 15)
さらにこのトピックについて…
(コンピュータ・システムにおける) 過渡的な誤動作は、電源電圧変動、電磁的干渉、あるいは放射線などの環境条件によって引金を引かれる。これらの誤動作はシステムの状態を狂わせられるものの、影響を受けたコンポーネントに恒久的な損傷を与えることは稀である。いくつかの調査によれば、過渡的な誤動作は恒久的な故障よりも遥かに多く発生しており、それらは検出することが困難でもある。 … 不思議なことに、ハードウェアの過渡的、あるいは断続的な問題を除けば、コンピュータの誤動作のほとんどはソフトウェアの欠陥かハードウェアの恒久的な故障のいずれかによるものである。さらに多くの調査が、この種類のものは恒久的な故障よりも遥かに頻繁に生じていることを示している。問題は、それは追跡がより困難であることである。
(IEEE Spectrum, August 1999, pages 50 and 51, "Fault injection spot-checks computer system dependability" J V Carriera, D Costa, and J G Silva)
そして、さらに…
昨年、UK Building Society のタウン・センター本部の駐車場に雷が落ちた。大きな電圧サージが保安用カメラをノック・アウトし、これはその接続ケーブルを介して３つの建物の中の他の電子機器へ流れた。建物の電気システムに入ると、その電圧サージは保安システム、火災警報システム、そして分散したコンピュータ機器に損傷を与えた。火災警報システムと無線タグ式自動ドア・システムのあいだのインターフェースも潜在的な損傷を受けたが、これはその時には気付かれなかった。この問題は、数週間後にその火災警報システムが切れ、スタッフがその自動ドアを通れなくなった時に始めて同定された。幸い、それは誤警報であった。
(Electrical Review, Vol 227 No 12, 10-30 June 94, page 90, "Don't lose your data in a flash" by Tony Harrison)
以前のアナログ式航空制御システムは、無線／レーダー送信器の上空を通過する際に誤動作を生じることがあった ―― 新世代のデジタル・システムは遥かに頑強であり、非常に厳しい EMC 要求を満足できる。
(Computing & Control Engineering Journal, IEE, August 1999 page 152, article on "Fly by Wire by Dick Collinson of Marconi Avionics.)
テスト・ハウスの EMC プロジェクトによって、コンピュータ製造業者らは、不適合の、CE マークが付けられたマザー・ボードや電源のために、 EMC 指令を満足することが不可能であることに気付いた。その企業の Mike Wood によれば、最近、その企業は顧客のために 12個の異なったマザーボードを試験し、いずれも EN55022 の限度値を満たしていないことに気付いたという。不合格は、限度線の上の数 dB から 20dB に及んだ。 EMC 規制を満足するためにそのボードをどのようにインストールすべきかに関する指示が与えられていたものはなかった。 Wood は「これらのボードを使って規格を満足させようとしている企業を非常に気の毒に思う。それを適合させることはほとんど不可能である」と言った。彼は、試験をせずに適合性の判断を行なうために CE マークの付けられたコンポーネントに頼るいかなる製造業者も酷い問題に遭う可能性が高いことを指摘した。
(Approval, Jan/Feb 99, page 5)
1998年に Swindon の Intel Corporation (UK) の責任者とこの一般的な問題についての話しをした時、彼らは常にマザーボードをそれらが異なった製造業者の様々な PC エンクロージャで EMC 適合となることを確認するための試験を行なっており、それにはほぼ２週間を要していると言った。彼は、これがコンピュータ業界紙でレビューされる「最もホットな」マシンでインテルのマザーボードを使っているものがない理由の１つであり、コンピュータ産業の速いペースにおいては、マザーボードを適切に評価するための時間を費すことは、彼らの法的な、また倫理的な義務に関してそれほど慎重ではない者に対して性能競争で２番手となることを意味すると主張した。
(Keith Armstrong, Cherry Clough Consultants, October 1999)

これは、EMC+Compliance Journal に掲載された記事を T. Sato が翻訳したものです。この翻訳については、原著者らはいかなる責任も持ちません。これについての意見、質問などは VEF00200@nifty.com (T.Sato) 宛にお送り下さい。

Last update: 2001-01-21

[ 前へ | 次へ ]