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低電圧指令 ―― 災禍とそれを避ける方法のケース・スタディ

by Gregg Kervill (GK Consultants Ltd.)
翻訳: T. Sato

1. 目標

低電圧指令 (LVD) とそれに関連する規格の要求は良く知られている ―― それらは、何と言っても、1973年から必須となっている！ これは、我々が全員がこの25年間 LVD の「必須要求」に適合するように設計してきたことを意味する。 この実践的な豊富な経験からすれば、 LVD アセスメントのためにテスト・ラボに送られたいかなる製品も 合格するものと期待すべきであろう。

残念ながら、現実はそのようなものではない ―― 最初に送られたものの大多数は、 対応する整合規格への、従って LVD への適合に不合格となっている。 しかしながら、これは最も深刻な問題ではない。 我々の工業界の電気製品の大多数が 製品安全に関して公式にアセスされたことがなく、 それらの製品の大多数が対応する欧州指令への適合に不合格となることを知れば、 我々の製品の極めて高い割合が欧州製品安全性要求に不適合となると 推測することができる。

この状況は、責任を持つ各個人を刑法のもとで告訴されるリスクに、また 各企業を欧州市場全体でその不適合製品をリコールする (財政的な) リスクに曝している。 この論文では、この状況を引き起こしている原因 (組織的なものと技術的なものの双方の) のいくつかを明らかにし、 この財政危機の可能性を避けるためのアクションをアウトラインする。

2. 何が物事を誤らせているのか？

我々がそうしている！ 我々は有罪だ ――我々とは、重役、管理者、あるいは設計者である―― 問題を引き起こしている連中は我々だ。 この理由は単純である： それは物事を行なっている人々である： 従って、もしそれが誤った方向へ向かったならば、 糾弾されるべき者は我々だけである。

3. なぜ我々は適合する製品を設計することができないのか？

低電圧指令は我々に安全な製品のみを市場に出すように要求し、 その「必須要求」への適合性を示すためのルートの1つとして、 我々の設計を対応する規格 (あるいは複数の規格) に基づいてレビューし、 試験することを認めている。 我々が不適合製品について語る時には、 人を殺したり不具にしたりし、あるいは工場全てを破壊する 能力を持った何かについて述べているということを覚えておくこと。

通常、我々は適合する製品の設計のための基本的な手順の1つ、 もしくはそれ以上で失敗しているであろう； この最も一般的なものは：

4. それを示そう！

以下に示すものは、大きい企業と小さい企業に共通する、 日常的な、より一般的な不適合の例である。

4.1 潜在的な感電の危険

最も一般的な理由は、保護接地への信頼できない接続である； 最も一般的には、圧着端子を誤った用途で使うことによる。

単一の圧着 (導線への) は ある種の SELV のためには受け入れられるかも知れないが、 危険な電圧や保護接地のためには受け入れられない。

二重の圧着 (ワイヤで1箇所、被覆で1箇所) は 危険な電圧やエネルギーのためには受け入れられるかも知れないが、 単一故障によって切り離されることがあるため、 保護接地接続のためには適切ではない。

ポジティブ・リテンション・クリップ (単なるディンプルではないもの) を備えた二重の圧着は、一般に、保護接地接続や、 コネクタの故障が危険な電圧やエネルギーの SELV への侵入を引き起こすような用途のために適切である。

4.2 不充分な絶縁

我々は 230V 機器の設計に慣れている： それでもしばしば、オペレータと危険な電圧の間に要求される、 必要な二段階の保護を設けることに失敗する。

この例は、パーソナル・コンピュータ用の電源において一般的である ―― 実際、私はこれらの要求を満足する、 試験機関のマークが付けられていない PC 電源を試験したことがない。

他の例は、ある工業用コントローラに取り付けられた端子台である。 その危険な電圧と 24V 信号グランドの間の沿面距離は、 基礎絶縁のための要求をやっと満たすだけである ―― これは、それをいかなるコンピュータ機器と共に使うことも妨げ、 またその外部配線が 300V 定格であることを要求する。 この端子に圧着端子や電線が接続された場合には、 その僅かな絶縁が台無しにされる顕著なリスクがあることは明らかである ―― これは、通常の動作状態において、 そのコントローラの全ての出力をライブにすることができる。

4.3 熱的な問題

明白なこと ―― 製品が暖まると、その内部の温度は上昇する。 この温度上昇を最大環境温度に加えれば、 クリティカル・コンポーネントの最大温度を超えていることを 見付けることができる。 多くのアメリカの製造業者が、主電源の周波数や電圧範囲を考慮することなく、 欧州にトランス、モータ、そしてソレノイドを供給している。

4.3.1 トランス

この例は最も良く売れている PC 用のモデムの1つからのものである。 私はこれを入手したが、非常にうるさく、また熱くなるため、交換を余儀なくされた。 公称 230V の主電源に接続すると、 その巻線の温度は無負荷で約 70℃上昇した。 全負荷で 255V を供給すると、その巻線は極度に熱くなった。

4.3.2 モータ

私は大気中の爆発性のガスを分析するための製品の 最初のアセスメントのために1日を費した。 それにはアメリカで作られたモータが含まれていた ―― それには 230V のマーキングと製造業者の名前があった。 残りの必須のマーキング情報は欠落していた。

我々は、無負荷状態で環境温度からの 125℃の温度上昇を測定した。 製造業者に連絡すると、彼らはその温度に達することはない筈だと言った ―― そして、2時間後に、 それは 200℃に達する可能性があるものと考えられるという連絡があった。 (使用されている絶縁の破壊温度よりも上である ―― そして、検出しようとしているガスの発火点よりも上である！)

最も顕著な事実は、アメリカの設計者は 欧州の公称主電源電圧が 220V であると本当に信じており、 それが 255V に達することがあるということに仰天し、 我々に全ての責任を負わせる ―― 「その電圧で動かすのであれば過熱することを覚悟しなさい！」

5. 共通のスレッド

これらの例の全てに共通する点が1つある ―― 設計者は適合性アセスメント (レビューと試験) の実施に失敗しており、 潜在的に危険な製品を市場に出し、 それによって彼ら自身と彼らの会社を大きなリスクに曝している。

ここに、企業が繰り返して強制されてきた公開リコール通知から選び出した、 もういくつかの例がある。 これは、同じ問題が繰り返して起こっていることを示すために、何年か遡っている。

各加盟国がそれぞれ強制 (エンフォースメント) のための手段を 選択できることに注意されたい。 例えば、イギリスの当局は、法定の罰金を科し、製品を差し押え (あるいは没収し)、 そして製品のリコールを行なわせる権限を持っている。 スウェーデンは罰金を科さない： それは、単に全ての不適合製品の回収を要求するだけである。 明らかに製造業者がこの活動のための費用を負担することになるであろうし、 そして確実に購入時の費用を払い戻すことになる。

6. しかし我々には我々が作ったものの全てをレビューすることはできない

我々は全てをレビューする必要はない ―― 我々は、物理的レビュー、型式試験、製造試験、 そして製造サーベイランスを実施する。

物理的レビュー ―― LVD 適合性確認活動の 70〜95% を要し、 これは資格のある技術者やテクニシャンの大半が 訓練や経験のもとで実施することができる。

型式試験 ―― これは通常の、そして異常な使用状態で実施される。

通常の状態での試験は適合性活動の 5〜10% を要し、次のものを含む：

異常状態での試験は「合理的な使用と予見可能な誤使用」という LVD の条件に合致するかどうかを調べるためのものである。 これらの試験は規格と製品の詳細な理解と、より重要な広範な経験を必要とする。 異常試験は適合性活動の 2〜20% を要する ―― 経験のない技術者は、これを容易に 60% にまで引き上げることがある。

6.1 型式試験

通常、これは1個のシステムに対してのみ行なわれる ―― そして、試験は破壊的なものとなる。 この目標は、製品が対応する指令の要求に合致しているかどうかを調べ、 その証明の客観的な証拠を対応する整合規格の節ごとに文書化することである。 また、迷惑な溶断を避け、かつ製品安全を保証するために、 我々は広範囲の条件での試験を行なうことによって ヒューズの個数とその定格が正しいことを確認する ―― もし値を間違ったならば、火災の危険を持つことになる可能性が高い。

6.2 製造試験

全ての製品に対して行なわれる。 この目標は、所定の主要な安全機能があることを試験することである。

6.3 製造サーベイランス

製造した個体全てが (製品安全の用語で) 「型式試験」された個体と同一でない限り、不適合な製品を製造し、 型式試験と適合性達成のための金を捨てたことになる可能性が高いので、 これは不用心な者に対する最後の罠である。 製造サーベイランスは、 我々の製品全てが適合することの保証を助けるであろう唯一のプロセスである。 TUV、BSI、UL、あるいは CSA などの主要な機関は、 第三者製造サーベイランスのプログラムを提供している ―― この代わりに、どのような企業でもその内部でこの能力を育てることができる。

Copyright (C) 1998 GK Consultants Ltd.

これは、Gregg Kervill 氏が 1998年9月に sci.engr.electrical.compliance にポストした文書を、 その許諾を得て T. Sato が翻訳したものです。 これについての意見、質問などは VEF00200@nifty.com (T.Sato) 宛にお送り下さい。

Last update: November 9, 1999