[ Home > 電気製品の EMC/安全適合性 > EMC+Compliance Journal より ]

BOM コストと収益性

by Eur Ing Keith Armstrong C.Eng MIEE MIEEE, Cherry Clough Consultants

翻訳: T.Sato


前の記事、「厳しい情勢では、より賢明な設計が勝つ」で、 私は次のように書いた:

「これが、材料費、あるいは BOM から最後の一銭まで削ることが重要であると ほとんどの設計者が考える理由である。 (今後の記事で説明するつもりの、やや明らかな理由のため、 これが真実であったことはなかった。)」

あなたは、今、その「今後の記事」を読んでいるところである。

BOM コストが利益の出る販売価格と (ほとんど) 関係しない理由を 既に知っているのであれば、他の記事まで飛ばし、 あるいは広告を見て何か買うものを探しても良いだろう。

まだそこにいるだろうか? 1980年代、電子設計者として働いている時に、 60個程のコンポーネントを含む基板全体を置き換えるであろう 新しいチップを見つけた。 褒められるものと思いながら それを技術担当役員に (それは小さい企業であった) 持ち込んだところ、 彼はその IC がいくらするのかを尋ねた。

それがいくらであったかは、もう覚えていない。 だが、その役員が、それは置き換えることになるコンポーネントよりも £1 高く、 この IC を使うことは製品の販売価格を部品代の増加分の5倍、 すなわち £5 上げることを意味するだろうと言ったことは覚えている。

さて、私は完全に面食らって立ち尽くした! まくしたてられて10秒ほど呆然とした後、 その役員は、我々の企業が作る製品の利益の出る価格は BOM コストを5倍することで求められると説明した。

私はそれを知らず、その後、 製品の種類や販売量などに基づいてその全てが異なる係数を用いる、 これと同じ全く基礎のない馬鹿げた原理を 販売価格の決定のために用いている他の企業に出会ってきた。

上の話の時、私は30歳過ぎで、 少なくとも自己主張に関してはやや成長の遅い者として、 これまでの人生でそんなに馬鹿げたことを聞いたことがないと その役員に言うことはできないと感じた。

私はただ数言呟いて彼のオフィスを出て ――残念ながら私は褒められることはなかった―― 健全さの何らかの見掛けを机上で見つけられるかも知れないと期待して、 専門誌の求人広告を見て仕事を探し始めた。 (今は私は自分自身のために働いており、その目標を最終的に達成できたと言える。)

製品の製造に入り込む様々なもの全てを正確に見積もるシステムを持つ企業は少ない。 そのようなシステムを設け、時の経過の中で最新の状態に保ち続けることは、 多くの作業を、そしていくらかの知力を要する。

BOM コストは、データをすぐに入手できる、製品のほぼ唯一の部分であり、 従って、正しい計算を行なう代わりに、 利益の出る販売価格と BOM コストのあいだには 一定の関係があるかのように多くの管理職が振る舞い、倍率を推定する。 上の (真実の) 話では、彼らはその値を5と推定した。

このアプローチがなぜうまくいかないかを示すために、 製品の利益の出る価格の設定のために考慮する必要がある事項のいくつかを列挙する。

1. 組織のオーバーヘッド

このカテゴリは、いずれも BOM コストと関係しない、少なくとも以下のものを含む:

2. 株主への支払いが望まれている配当

BOM コストには関係しない。

3. BOM コスト

4. 生産とリワークのコスト

これらのいずれも BOM コストには関係しない。

5. 保証コスト

高品質の素材や高信頼のコンポーネントは一般によりコストを要することを除き、 これらのいずれも BOM コストとは関係しない。 だが、信頼性の主な決定要因は、設計の経験と生産品質である。

上のリストの項目1、2、及び5は、生産されたそれぞれの製品のコストに、 「粗利」と呼ばれる金額を加えることによって支払われる。 ほとんどのメーカーでは、それは製品の生産の総コスト (項目3と4) よりも大きい。

従って、製品の販売価格の半分以上は生産に要するコストとは無関係である (そして、生産コストの一部のみが BOM に関係する)。

(そう、我々は皆、上の説明が非常に正確というわけではない、 労働搾取工場、そして最初期のロットの最新の Intel のプロセッサを積んだ マザーボードを売っている企業を知っている。 だが、私は、読者自身が働いているかも知れない、 典型的な西ヨーロッパ、オーストラリア、 あるいはアメリカの企業について語っている。)

さて、図のない長々とした1インチコラムに立ち向かい、 ここまでやり遂げた辛抱強い読者にクイズを出させてもらおう!

質問1: 上の5つのカテゴリーのうち、 BOM コストに少しでも関係しているものはいくつか?

質問2: 質問2はない。

1つだけ ―― リストの項目3 (そして、ひょっとすると項目5のごく一部)」 と答えた人は、クラスのトップになれる! あなたは、私の前の話の技術担当役員 (彼の Ph.D とは無関係に) よりも、 そして彼の同僚の他の役員達よりも賢明である。

勿論、うまくいっており、明らかに利益の出ている立証済みの製品があれば、 その販売価格を BOM コストで割って値を出すことができる。

将来の製品全てが、 同じ機能の実現のために同じ方法で設計された同じコンポーネントを用い、 同じスキルとテクノロジーを用いて組み立てられ、 同じ顧客が同じ数だけ購入し、他の何も変わらない (例えば、給料、賃貸料、配当、税金などなど、 そしてクリスマスパーティーの費用) ならば、 同じ BOM 倍率が利益の出る正確な販売価格を与えることだろう。

だが、これは、決して真ではない、完全に不合理な仮定に基づく

私は同じテクノロジーを用いる2つの連続したプロジェクトで働いたことはなく、 私の経験は電子設計者にとって典型的なものと思われる。 例えば、1970年から、 私はプリント基板 (PCB) 生産技術の次のような変遷を見てきた:

上の進歩のそれぞれの技術的ステップで、PCB 生産部門や購買部門は、 新しい PCB テクノロジのコストが古いもよりも高く、 従って新しいテクノロジを用いた製品の販売価格は 高くなることは避けられないだろうと警告した。

だが、後知恵の利点のもとで我々が皆知っているように、 より高コストの新しいテクノロジーの使用のため、 その性能と機能が向上しているにもかかわらず 電子製品のコストは持続的に低下してきた。

2つの全く合理的なシナリオを見てみよう:

A) PCB 全体を占有する複雑な回路を 単一の IC によって置き換えることができる。

欠点: BOM コストの増加。

利点:リワークを必要とする製品の割合を低下させる、 失敗する半田付け箇所の少なさ; より高い信頼性; 全てが顧客の満足を向上させる、より低い保証コスト、 より小さい (従ってより魅力的な) 製品、そしてより小さい包装と輸送のコスト; 将来の販売のより小さいコスト; 販売量と市場占有率の向上。

そのより高い BOM コストという理由で 新しい IC の使用を拒否することは合理的だろうか? 増加した BOM コストのために、 その製品の販売価格を本当に上げなければならないのだろうか?

B) 見積もられた BOM コストに合わせるようにという圧力のため、 30ペンスの放熱器が省略された。

設計者は、関係する IC の温度を測定して 放熱器なしで最大温度定格のすぐ下であるのに気付き、 それで大丈夫だろうと自らを納得させた。

だが、ほとんどの工学部の課程では、半導体の信頼性が 典型的には温度が 10℃ 上昇する毎に半分になることは教えない。 そのため、その設計者は、 30ペンスの放熱器を加えることがその部品の温度を 150℃ から 90℃ に下げ、 その信頼性をおおよそ 100倍に向上させるであろうことに気付かなかった。

問題の IC はその製品内で最も高いストレスを受けるコンポーネントであったので、 保証期間中の信頼性はこの IC に支配され、 その保証返品率は冬季で 25%、夏期で 75% であることがわかった。

修理された製品の同程度の割合が、 同じ IC が再び壊れた時に保証のもとで再び返品された。 その製造業者のブランドの評判は急速に低下した。

最終的に、何が問題なのかに気付いて 30ペンスの放熱器を追加し、 返品率を 1% 以下に低減した。

保証コスト、顧客満足度、将来の販売のコスト、市場占有率などへの 起こり得る影響を考慮することなしに、 BOM の見積りに合わせるために 30ペンスの放熱器を省略することは 合理的であったとお考えになるだろうか? 勿論、その設計者は大学を出て1年経っただけであり、 アーレニウスと彼の有名なカーブのことを聞いたこともなかった。 だが、そのような状況だとわかっていれば、 誰かがこの種の問題に気を付けているべきであったろう。 有能な、経験のある技術的監督なしでは、メーカーは、 費用効果が良く、利益の出る製品を設計することを、 雇主の潜在的に破滅的なコスト負担のもとで設計者が困難な方法で学ぶ場所となる。

ここまで読んで、BOM コストが利益の出る販売価格の支配的要因であると まだ考えるのであれば、それ以上私にできることはない! だが、あなたは、 他の人々の大金を浪費したり失ったりすることがそれほど問題とならないようである 金融や政治でより良いキャリアを積めるかも知れない。


Copyright (C) 2009 Nutwood UK Ltd.

これは、EMC+Compliance Journal に掲載された記事を、 その許諾を得て T. Sato が翻訳したものです。 この翻訳については、原著者らはいかなる責任も持ちません。 これについての意見、質問などは VEF00200@nifty.com (T.Sato) 宛にお送り下さい。

Last update: 2010-02-20